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はだいろのつき

肌色の月

久生 十蘭

「婦人公論」中央公論社、1957(昭和32)年4~8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 50,706 字 · 101 页

青空文庫

「どんな話だね?」

「ロッジへ入って来たのは、大池忠平でなくて、名古屋で工場をやっている、弟の大池孝平です」

捜査一課は下眼になって、なにか考えていたが、煙草に火をつけると、胡散くさいといったようすで問いかえした。

「忠平でなくて、孝平か」

「そうです」

「えらいことを言いだしたな……それは確信のあることなのか」

「兄の忠平は顔写真でしか知りませんが、孝平のほうなら、たびたび名古屋の家へ宅参りして、いやというほど顔を見ていますから、間違えるはずはありません」

捜査一課は丸山捜査主任のほうへ向きかえると、癇のたった声で投げだすようにいった。

「あのプリムスは、大池忠平が東京を逃げだすとき、乗って行ったやつだったんで、ちょっと、ひっかかった。ちくしょう、味なことをしやがる」

丸山捜査主任は渋い顔でうなずいた。

「それは、あの女が言ってましたね……ロッジで逢ったのは、顔写真の男とはちがうようだって……あれは正直な発言だったんですな……皮肉な女だ。てんで舐めてかかっている。あれはマレモノだよ」

「うまく遊ばれたらしいね」

畑中刑事が捜査一課にたずねた。

「部屋長さん、二人をひっぱっちゃいけないんですか。