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しぜんげんしょうのよほう

自然現象の予報

寺田 寅彦

「現代之科学 第四巻第三号」1916(大正5)年3月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,394 字 · 21 页

青空文庫

五

仮りにこれらが知られたりとするも、多数の弱点が同時に不安定に近づく時、そのいずれが先ず変化を始むべきかはいわゆる偶然の決する所なるべし。この場合においても予報の意味は世人の期待と甚だしく離反すべし。

実際の地殻においてはその弱点の分布は必ずしも簡単ならず、しかもおのおのの弱点は相互に独立ならず、なんらかの関係を有すべく、特に一層事柄を複雑にするは、地殻岩石の弾性履歴効果の著しき事なり。これらがことごとく知られたりとするも、現象の性質上、原因の微分的変化に対して、結果の変化は有限にして且つその単義性も明らかならず。具体的に云えば地辷り等がある限界内に止まれば、それだけにて止むも、少しにてもこれを超ゆれば他の弱点の破壊を誘起して更に大なる変動を起す事もあるべく、その際如何なる弱点が誘発さるるやはまた偶然的なる地下の局部的構造によると考えらる。

かくのごとき場合に普通の簡単なる公算論の結果を応用せんとするには至大の注意を要する事は明らかなるべし。

五

予報の可能不可能という事は、考え方によればあまりに無意味なる言葉なり。例えば今月中少なくも各一回の雨天と微震あるべしというごとき予報は何人も百発百中の成効を期して宣言するを得べし。