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しぜんげんしょうのよほう

自然現象の予報

寺田 寅彦

「現代之科学 第四巻第三号」1916(大正5)年3月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,394 字 · 21 页

青空文庫

一

一

ある自然現象の科学的予報と云えば、その現象を限定すべき原因条件を知りて、該現象の起ると否とを定め、またその起り方を推測する事なり。これは如何なる場合に如何なる程度まで可能なりや。この問題が直ちにまた一般科学の成立に関する基礎問題に聯関する事は明らかなり。しかし因果律の解釈や、認識論学者の取扱うごとき問題は、余のここに云為すべき所にあらず。ただ物理学上の立場より卑近なる考察を試むべし。

厳密なる意味において「物理的孤立系」なるものが存せず、すなわち「万物相関」という見方よりすれば、一つの現象を限定すべき原因条件の数はほとんど無限なるべし。それにかかわらず現に物理学のごときものの成立し、且つ実際に応用され得るは如何。これは要するに適当に選ばれたる有限の独立変数にてある程度までいわゆる原因を代表し、いわゆる方則によりて結果の一部を予報し得るに依る。これにはいわゆる原因と称するものの概念の抽象選択の仕方が問題となる。これは結局経験によって定まるものにして、原因の分析という事自身が既に経験的方則の存在を予想する事は明らかなり。物理的科学発展の歴史に溯れば、到る処かくのごとき方則の予想によって原因の分析、すなわち最も便宜なる独立変数の析出に勉めたる痕跡を見出し得べし。