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しぜんげんしょうのよほう
自然現象の予報
寺田 寅彦
「現代之科学 第四巻第三号」1916(大正5)年3月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,394 字 · 21 页
一層偶然の著しき場合は、例えば鉛筆を尖端にて直立せしめ、これがいずれの方向に倒るるかという場合、あるいは賽を投げて何点が現わるるかというごとき場合なり。これらの場合においても、もしすべての条件がどこまでも精しく与えられおれば結果は必ず単義的に定まるべしというがいわゆる科学的定数論者の立場なり。これはおそらく大多数の科学者の首肯する所なるべし。しかし実際にはこれらのすべての条件が知り難き故に結果の単義性は問題となる。
抽象的、数学的に考うれば複義性なる函数は無数に存在す。例えばファン・デル・ワール等の理論に従えば、ガス体の圧を与うればその体積には三種の可能価ある事となる。この理論の当否は問わざるも、抽象的にこの事は可能なるべし。今かくのごとき場合にも天然現象は必ず単義的に起るとすれば、それは如何なる理由によるべきか。ここに「安定度」とか「公算」とかいう言葉が科学者の脳裡に浮ぶべし。ここに吾人は科学と形而上学との間の際どき境界線に逢着すべし。熱力学にエントロピーの観念の導入され、またエントロピーと公算との結合を見るに至りし消息もまたここに至って自ずから首肯さるべし。