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えんしょ
艶書
山本 周五郎
「小説倶楽部」桃園書房、1954(昭和29)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,027 字 · 50 页
――これはいけない、怒らせてしまった。
出三郎は舌打ちをした。梅林のかなたへ小走りに去ってゆく七重の、鮮やかに白い足袋の色が、あたかも彼女の怒りを代弁するかのように思われる。彼はもういちど舌打ちをし、持っている艶書を袂へ突っ込んで、がっかりしながら家へ入った。
「お互いの仲だからいいと思ったんだが」と彼は呟やいた、「幼なじみだから笑って見てくれると思ったんだが、――やっぱり年ごろの娘に恋文を読めなどというのは、悪かったかもしれない」
ばかなことをした、と彼は自分を罵しった。ことによるとこれで七重との長い友情もだめになるかもしれない。おそらくもう七重は自分とは会わなくなるだろう。彼はそんなふうにも思った。
しかし実際にはそんなことはなかった。
四五日経ったある日、庭で見かけたので呼んでみた。だめだろうと思いながら、鳩の声をまねて呼ぶと、七重はすぐに聞きつけて振り返り、微笑しながらこっちへ近づいて来た。出三郎はほっとして、おじぎをしながらあやまった。
「いいんですのよ」と七重はやさしく云った、「そんなに怒りはしませんわ、でも、これからあんなことなさらないでね、他人の文を読ませるなんて、あなたにも似合わないことですわ」