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えんしょ

艶書

山本 周五郎

「小説倶楽部」桃園書房、1954(昭和29)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,027 字 · 50 页

青空文庫

出三郎は三日ごとに定高邸へいった。それまでに調べた事項が、半兵衛の要求に合っているかどうか、とくに「土壌」の項に自信がなかったので、その意見が聞きたかったのである。半兵衛は結構だと云った。

「稲田を麦作に使えないかと思ったんだ、稲を苅ったあとの田を、半年も遊ばせておくのはもったいないんでね」半兵衛は彼の調書を見ながら云った、「肥料をべつにして、土質がどうか知りたかったんだが、これでいい、これからもこの方針でやってもらおう」

そうして、ふいにこちらの眼をみつめてから云った。

「艶書のぬしはわかったかね」

出三郎は返辞をせずに調書を片づけた。

明くる年の二月、藩主といっしょに出府するまで、半兵衛はしきりに出三郎を「角万」へつれだした。半兵衛の遊びぶりは相変わらずで、よくいえば豪放というのだろうが、あんまりずけずけと露悪的なので、出三郎はいつも辟易するばかりである。それでなるべく避けようとするが、半兵衛はおもしろがってでもいるようなぐあいで、巧みにつかまえてはつれ出すのであった。

七重の消息はほとんど聞かなかった。いちど「角万」の廊下で笠井忠也に会ったことがある。