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えんしょ
艶書
山本 周五郎
「小説倶楽部」桃園書房、1954(昭和29)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,027 字 · 50 页
「おれは出さんが好きだ、出さんのように自分を売りたがらない人間がおれは好きだ、今夜はすまなかったな、兄貴にも黙っていてくれよ」
そして半兵衛は引き返していった。
約半月のあいだ、城下ぜんたいが不安な暗い気分の下に息をひそめていた。出三郎も外出をやめ、夜になるのを待ちかねて、城から下ってくる兄の話しを聞いた。掬水楼襲撃という出来事は誇張して(噂というものがいつもそうであるように)伝えられ、半兵衛はほとんど英雄のように評された。もちろん、現在の重職陣には決定的な打撃であった。刺客五人のうち、即死二人、重傷して三日のちに死んだ者一人(笠井忠也)生き残った者二人であるが、その生き証人の口から、
「半兵衛暗殺」の計画が詳しく告白されたのである。
「ばかなことをするものだ」兄の和兵衛は話すたびに云った、「定高を斬ってどうしようというのだ、半兵衛がなんだというのだ、おかしなことを考える連中だ、みんな気でも狂ったに違いない」
真相を知らない兄が出三郎にはおかしかった。
城代家老の村山享書が辞職し、末席の河井右京がその代役に直った。それが十月はじめのことで、次に江戸の老職のうち三分の二が交代し、国許では河井右京のほか全重職が(順次にではあったが)入れ替った。