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はなこ
花子
「三田文学」1910(明治43)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,950 字 · 11 页
「ここにいますか。」
「わたくしの職業にも同じ必要に遭遇することはあるのです。しかしマドモアセユのために不愉快でしょう。」
「そうですか。十五分か二十分で済みますから、あそこの書籍室へでも行っていて下さい。葉巻でもつけて。」ロダンは一方の戸口を指ざした。
「十五分か二十分で済むそうです」と、花子に言って置いて、久保田は葉巻に火をつけて、教えられた戸の奥に隠れた。
* * *
久保田の這入った、小さい一間は、相対している両側に戸口があって、窓はただ一つある。その窓の前に粧飾のない卓が一つ置いてある。窓に向き合った壁と、その両翼になっているところとに本箱がある。
久保田はしばらく立って、本の背革の文字を読んでいた。わざと揃えたよりは、偶然集まったと思われる collection である。ロダンは生れつき本好で、少年の時困窮して、Bruxelles の町をさまよっていた時から、始終本を手にしていたということである。古い汚れた本の中には、定めていろいろな記念のある本もあって、わざわざここへも持って来ているのだろう。
葉巻の灰が崩れそうになったので、久保田は卓に歩み寄って、灰皿に灰を落した。