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はなよい
花宵
山本 周五郎
「少女の友」1942(昭和17)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,938 字 · 18 页
二
――英三郎おまえがいけません。
どんな場合でも母はそう云って彼を叱った。どんなに兄が無理なときでも叱られるのは彼だった。
――おまえが悪いのです英三郎、兄さまにお詫びをなさい。
そういうことがたび重なるにしたがって、英三郎のおぼろな記憶のなかから或ひとつの言葉がよみがえって来た。それはもうずっと昔のことであるが、兄とふたりで庭で遊んでいたとき、客間の広縁のところから父と来客の老人とがこっちを見ていた。
ふたりは英三郎と清之助の遊んでいるさまを眺めていたらしかったが、そのうちにふと客の老人がひとりごとのようにつぶやいた。
――まるでまことの兄弟でございますな。
二
言葉はそのとおりではなかったかもしれない、けれども英三郎の記憶にはそういう意味で残っていた。そのときは妙なことを云う御老人だと思っただけですぐ忘れてしまったけれども、この頃になってひとりで考えることが多くなるのといっしょに、その老人のふしぎな言葉がしきりと思いだされるのであった。
――もしや自分は継の子ではないかしら。
考えるだけでも眼の前が暗くなるような気持であるが、ともすると英三郎はそのことを思いつづけるようになった。