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えいほんどじょうりくせんのぜんや

英本土上陸戦の前夜

海野 十三

「新青年」1941(昭和16)年 2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,727 字 · 72 页

青空文庫

「危い!」

彼は畦をとびこえて、舗道から逃げた。

濛々たる砂塵をあげて、トラック隊は、ひきもきらず、呆然たる彼の前を通りぬけていった。

“気球第百六十九部隊”

と、そういう文字が、トラックの函のうしろに記されてあった。それは、リバプール港へいそぐ阻塞気球隊だったが、彼は、そんなことを知る由もなかった。

山火事のように渦をまく砂塵の中に、ただひとり取り残されていた彼だった。

砂塵は、いつまでたっても、治まる模様がないので、彼は再び舗道へのぼり、気球隊の通りすぎた後を、ぼつぼつと歩きだした。

「イギリスは、いまドイツと闘っていると看守がいったが、このことだな。危険、危険」

それから半マイルばかり歩いた。

彼は、とうとう疲れてしまって、道傍に腰を下ろした。リバプールの市街の塔や高層建築が、もう目の前にあった。空には、夢のように、阻塞気球が、ぷかりぷかりと浮んでいた。

「ああ、綺麗だなあ」

と、彼は見当ちがいの賛辞をのべた。

道ゆく人が、探るような目で、彼の顔を覗きこんでいった。

(ミスター・F――と、あの看守は呼んでいたな。すると、おれは、ミスター・Fという人間か。