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かふうせんせいとじょうじんのしゃしん
荷風先生と情人の写真
佐藤 春夫
「週刊現代 第一巻第六号」1959(昭和34)年5月17日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,934 字 · 6 页
僕はその場限りの話と思っていたら、次に顔を合した時、先生からその話を持ち出して、
「約束どおり、あの手紙や写真の束は包み直して君への遺品に贈るように表面にはっきり書いて置いたよ、写真のうらにはもとから詳しい説明が書いてあるし」
と言われたので、僕は、
「それでは先生の百年を待つような気になっていけません。いっそ直ぐにはいただけませんか」
「いや、それはいけない。今はまだ時々出して見たいこともありますからね」
と先生は若々しく、というよりは子供らしく微笑した。先生はよくこの無邪気な子供らしく美しい笑顔を見せたものであった。
僕としてはもうそれ以上は押してみる手も無かったから、そのままになってしまっているうち、戦争になり僕は従軍して戦場の諸方に行き、その間に僕の紹介者に不都合があるなどさまざまな事が先生の心証を害して僕は恐縮した。一方この貴重な記念品は兵火にかかった麻布市兵衛町の偏奇館の炎上といっしょに、かの美人たちの面影も灰と煙とになってしまった。――いずれにせよ、もう僕の手には入りにくくなっていた品ではあったが。
僕はそのころ度々偏奇館へも参上したが、僕のために包みなおされたという品はついぞ見せてもらったこともないし、この話の真実性は僕にもほんとうは幾分うたがわしい。