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きくにんぎょう

菊人形

宮本 百合子

「大衆クラブ」1948(昭和23)年第9号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,991 字 · 16 页

青空文庫

あっさんがね、お前さん、こういうんだよ、いけすかないったらありゃしないじゃないか、ねえ、などと笑いながら、ついて来た女中と喋っているおゆきの話しかたが、六つ七つの女の子の興味をそそった。うちでは、おゆきのように話すものがなかった。あっさんとおゆきがいるだけで、子供のいない家というのも珍しかった。

浅吉は、昔、祖父の俥をひいていたのだそうだ。祖父が田舎へひっこむについて、大学の赤門の門番になった。わたしたちの知ったとき、もう浅吉の木菟のようなふくらんだ頬っぺたには白く光る不精髭があったし、おゆきは、ばあやさんと呼ばれていた。

「ねえ、おゆきばあや、あっさんは赤門にいるの」

縫物をしているおゆきのわきにころがって小さい女の子は質問した。

「そうですよ」

おゆきは、縫っていた糸を歯できって、つぎのしるしにまち針をうちながら、

「あっさんは赤門。きのうも赤門、きょうも赤門てね」

「赤門でなにしてるの?」

「腰かけて、うちわでもつかってるんでしょうよ」

「ふーん」

どうも不思議だった。いつか赤門をとおったとき、ここに浅吉がいるはずだよ、と母が、入ってゆく右手の門番のところをちょっとのぞいた。