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なおこ
菜穂子
堀 辰雄
楡の家 第一部「物語の女」山本書店、1934(昭和9)年11月<br> 楡の家 第二部「文学界」1941(昭和16)年9月号<br> 菜穂子「中央公論」1941(昭和16)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,758 字 · 173 页
「一晩位なら、此処の床板だって寝られるさ。そう寒いというほどでもないし……」
菜穂子は「まあ此の人が……」と驚いたようにしげしげと圭介を見つめた。それから云っても云わなくとも好い事を云うように、「変っているわね……」と軽く揶揄した。しかし、そのときの菜穂子の揶揄するような眼ざしには圭介を苛ら苛らさせるようなものは何一つ感ぜられなかった。
圭介はひとりで女の多い附添人達の食堂へ夕食をしに行き、当直の看護婦に泊る用意もひとりで頼んで来た。
八時頃、当直の看護婦が圭介のために附添人用の組立式のベッドや毛布などを運んで来て呉れた。看護婦が夜の検温を見て帰った後、圭介は一人で無器用そうにベッドをこしらえ出した。菜穂子は寝台の上から、不意と部屋の隅に圭介の母の少し険を帯びた眼ざしらしいものを感じながら、軽く眉をひそめるようにして圭介のする事を見ていた。
「これでベッドは出来たと……」圭介はそれを試めすように即製のベッドに腰をかけて見ながら、衣嚢に手を突込んで何か探しているような様子をしていたが、やがて巻煙草を一本とり出した。
「廊下なら煙草をのんで来てもいいかな。