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なおこ
菜穂子
堀 辰雄
楡の家 第一部「物語の女」山本書店、1934(昭和9)年11月<br> 楡の家 第二部「文学界」1941(昭和16)年9月号<br> 菜穂子「中央公論」1941(昭和16)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,758 字 · 173 页
二十二
二十二
雪は烈しく降り続いていた。
菜穂子は、とうとう矢も楯もたまらなくなって、オウヴア・シュウズを穿いた儘、何度も他の患者や看護婦に見つかりそうになっては自分の病室に引き返したりしていたが、漸っと誰にも見られずに露台づたいに療養所の裏口から抜け出した。
雑木林を抜けて、裏街道を停車場の方へ足を向けた菜穂子は、前方から吹きつける雪のために、ときどき身を捩じ曲げて立ち止まらなければならなかった。最初は、只そうやって頭から雪を浴びながら歩いて来て見たくて、裏道を抜ければ五丁ほどしかない停車場の前あたりまで行ってすぐ戻って来るつもりだった。そのつもりで、けさ圭介の母から風邪気味で一週間ほども寝ていると云って寄こしたので、それへ書いた返事を駅の郵便函にでも投げて来ようと思って、外套の衣嚢に入れて来た。
一丁ほど裏街道を行ったところで、傘を傾けながらこちらへやって来る一人の雪袴の女とすれちがった。
「まあ黒川さんじゃありませんか。」急にその若い女が言葉を掛けた。「何処へいらっしゃるの?」
菜穂子は驚いてふり返った。襟巻ですっかり顔を包み、いかにも土地っ子らしい雪袴姿をした相手は、彼女の病棟附きの看護婦だった。