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なおこ
菜穂子
堀 辰雄
楡の家 第一部「物語の女」山本書店、1934(昭和9)年11月<br> 楡の家 第二部「文学界」1941(昭和16)年9月号<br> 菜穂子「中央公論」1941(昭和16)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,758 字 · 173 页
二十四
菜穂子はその傍で、今の圭介の態度にちょっと好意のようなものを感じながら、初めて自分の夫のそんな性質の一面に心を留めなどした。……
やがて車が道を曲がり、急に人けの絶えた木立の多い裏通りに出た。
「其処だ。」圭介は性急そうに腰を浮かしながら、運転手に声をかけた。
彼女はその裏通りに面して、すぐそれらしい、雪をかぶった数本の棕梠が道からそれを隔てているきりの、小さな洋館を認めた。
二十四
「菜穂子、一体お前はどうして又こんな日に急に帰って来たのだ?」
圭介はそう菜穂子に訊いてから、同じ事を二度も問うた事に気がついた。それから最初のときは、それに対して菜穂子が只かすかなほほ笑みを浮べながら、黙って自分を見守っただけだった事を思い出した。圭介はその同じ無言の答を怖れるかのように、急いで云い足した。
「何か療養所で面白くない事でもあったのかい?」
彼は菜穂子が何か返事をためらっているのを認めた。彼は彼女が再び自分の行為を説明できなくなって困っているのだなぞとは思いもしなかった。彼は其処に何かもっと自分を不安にさせる原因があるのではないかと怖れた。しかし同時に、彼は、たといそれがどんな不安に自分を突き落す結果になろうとも、今こそどうしても、それを訊かずにはいられないような、突きつめた気持ちになっている自分をも他方に見出さず