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なおこ
菜穂子
堀 辰雄
楡の家 第一部「物語の女」山本書店、1934(昭和9)年11月<br> 楡の家 第二部「文学界」1941(昭和16)年9月号<br> 菜穂子「中央公論」1941(昭和16)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,758 字 · 173 页
にちがいない。何故そんな移ろい易いようなお気持を、こんな婉曲な方法にせよ、私にお打ち明けになったのだろう? いままでのように、向うもこちらもそういう気持を意識せずにおつきあいしているのならいいが、いったん意識し合った上では、もうこれからはお逢いすることさえ出来ない。……
そうして私はあの方のそんな一人よがりをお責めしたい気もちで一ぱいになっていた。しかし、そういうあの方を私はどうしても憎むような気もちにはなれなかった。そこに私の弱みがあったように思われる。……が、私はその数篇の詩が私に宛てられたものであることを知り得るのは、恐らく私一人ぐらいなものであろうことに気がつくと、何かほっとしながら、その紙片を破らずに自分の机の抽出しのずっと奥の方に蔵ってしまった。そうして私は何んともないような風をしていた。
丁度、お前たちと夕方の食事に向っている時だった。私はスウプを啜ろうとしかけたとき、ふとあの紙片が「昴」からの切り抜きであったことを憶い出した。(それまでもそれに気がついていたが、それが何んの雑誌だろうと私は別に問題にしていなかったのだ。)そしてその雑誌なら、毎号私のところにも送ってきてある筈だが、この頃手にもとらずに放ってあるので、若しかしたら私の知らぬ間に、兄さんはともかく、お前はもうその詩を読んでいる