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なおこ
菜穂子
堀 辰雄
楡の家 第一部「物語の女」山本書店、1934(昭和9)年11月<br> 楡の家 第二部「文学界」1941(昭和16)年9月号<br> 菜穂子「中央公論」1941(昭和16)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,758 字 · 173 页
彼女は式場の入口に新夫の圭介と並んで立ちながら、自分達のところへ祝いを述べに来る若い男達に会釈していた。この男達とだって自分は結婚できたのだと思いながら、そしてその故に反って、自分と並んで立っている、自分より背の低い位の夫に、或気安さのようなものを感じていた。「ああ、あの日に私の感じていられたあんな心の安らかさは何処へ行ってしまったのだろう?」
或日、牧柵を潜り抜けて、かなり遠くまで芝草の上を歩いて行った菜穂子は、牧場の真ん中ほどに、ぽつんと一本、大きな樹が立っているのを認めた。何かその樹の立ち姿のもっている悲劇的な感じが彼女の心を捉えた。丁度牛や馬の群れがずっと野の果ての方で草を食んでいたので、彼女はそちらへ気を配りながら、思い切ってそれに近づけるだけ近づいて行って見た。だんだん近づいて見ると、それは何んと云う木だか知らなかったけれど、幹が二つに分かれて、一方の幹には青い葉が簇がり出ているのに、他方の幹だけはいかにも苦しみ悶えているような枝ぶりをしながらすっかり枯れていた。菜穂子は、形のいい葉が風に揺れて光っている一方の梢と、痛々しいまでに枯れたもう一方の梢とを見比べながら、