轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

おちむしゃにっき

落武者日記

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1941(昭和16)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,460 字 · 23 页

青空文庫

祐八郎は静かに振返って、

「迷惑を掛けて済まなかった、おまえに罪のないことは、陣所へまいって固く陳弁してやる、……雑作をかけた詫びを云うぞ」

娘は答えなかった。そして地面に膝をついたまま、大きく空虚に瞠いた眼で、喰入るように祐八郎の眼を見上げていた。

「別れるまえに訊ねたいことがある、おまえの名を聞かせてくれ」

「……まつ、……まつと申します」

「……まつ。済まなかった」

祐八郎は娘の眼を見返しながら、心へ刻みつけるように呟くと、振返って、

「さあ曳いて行け」

と高く顎をあげた。

もうなにも考えることはなかった。行き着くところへ行き着いた者の、澄んだ、快いほどに澄んだ気持だった。……石山の陣所でひととおり訊問され、三成の家臣だということが分ると、そのまま大津へと運ばれた。

――御主君はどうあそばしたか。

なによりもそれが知りたかった。それで大津へ曳いて行かれる途中も、警護の者の言葉から耳を離さなかった。しかし、結局は安否を知ることができずにしまった。

石山から大津までのあいだは、おびただしい関東軍の人馬で埋ったようだった。勝軍にめぐまれた人々の、元気いっぱいな、明るい談笑がいたるところで湧きかえっていた。