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おちばのとなり

落葉の隣り

山本 周五郎

「小説新潮」1959(昭和34)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,877 字 · 57 页

青空文庫

同じような気持になったことは、それからあとにも三度ある。そして、「死んじまいたい」と思いつめるそのときの気持には、嘘も誇張もない。ぎりぎりいっぱい、死ぬよりほかにないと思うのだが、そのときが過ぎてしまうと気持もいつか変ってゆき、そんなに思いつめたことがばからしくさえなる、とおつぎは云った。

「人間てそんなものらしいわ」おつぎはにっと微笑した、「悲しいことかもしれないけどね、おかげで生きていられるんでしょ」

なんのためにそんな話をするんだ。初対面なのに、なにか勘ちがいをしているな、繁次はそう思いながら、やはりあたたかな、母親の乳の匂いでも嗅ぐような、しんみりした気分に浸っていた。

「おれ、繁次っていうんだ」ふとそう云ってから、恥ずかしそうに彼は赤くなった。

「そう」とおつぎは頷いた、「繁さんね」

奥のほうでおつぎを呼ぶ声がし、小女がこっちへ来て「ねえさん」と云った。たぶん馴染の客なのだろう。おつぎは繁次に手を出して云った。

「もう一つちょうだい」

繁次はうろたえた手つきで、持っていた盃を渡し、酌をしてやった。

「御馳走さま」おつぎは飲んでから、そう云って繁次の顔を見た、「――よかったらまた来てね、くよくよするんじゃないのよ」