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おちばのとなり
落葉の隣り
山本 周五郎
「小説新潮」1959(昭和34)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,877 字 · 57 页
一
一
おひさは繁次を想っていた。それは初めからわかっていたことだ。ただ繁次が小心で、おひさの口からそう云われるまで、胸の奥ではおひさを想いこがれながら、おひさは参吉を恋しているものと信じ、そのために心を磨り減らしているのであった。
「なんでもないよ、繁ちゃん」と参吉が云った、「大丈夫だ、心配しなくってもいいよ」
これが繁次と参吉と、そしておひさをむすびつけるきっかけになったのだ。
繁次と参吉はおないどしであった。浅草黒船町の裏の同じ長屋で生れ、その長屋で育った。おひさはかれらより五つとし下で、やはり同じ長屋の、繁次の家と向う前に住んでいた。――三人は小さいじぶんお互いを知らなかった。長屋には子供が多いし、三人はめだつような子ではなかったからだ。そのうえ、繁次は七つのときに総持寺の末寺へ小僧にやられ、五年のあいだその長屋にいなかった。父の源次は古金買いをしていたが、繁次を坊主にするつもりだったらしい。こんな世の中では正直者は一生うだつがあがらない、どんな貧乏寺でも一寺の住職となれば、人にも尊敬されるし食うにも困らないから、というようなことを、まだ七歳にしかならない繁次に云い聞かせた。