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おちばのとなり
落葉の隣り
山本 周五郎
「小説新潮」1959(昭和34)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,877 字 · 57 页
繁次はしゃがんだまま、両手を固く握り合せ、それを額へぐいと押しつけた。
「それがほんとなら」と繁次はよく聞きとれない声で云った、「――いや、いまでもそう思っていてくれるのか」
おひさは答えなかった。呼吸五つほど数えても答えのないことで、繁次にはおひさの気持がおよそわかった。
「参吉はもうだめだぜ」と繁次が云った、「あいつは小村屋の娘を貰うだろう、だが、それも長続きはしないだろうし、職人としても立ち直ることはできやしないぜ」
「だめなことはあたしも同じよ」とおひさが云った、「――薪小屋の前であの人に抱かれたとき、あたし、これが繁ちゃんなら、って思ったわ、あんなふうに抱かれるなんて夢にも思わなかったし、抱かれるとすぐに、これが繁ちゃんだったらいいのにって思った、おかしいようだけれど、いまでもそのことは覚えているのよ」
「おれには、とても」と繁次が口の中で呟いた、「とてもそんな勇気はありゃあしねえ、けれどもおれは」
「いいえだめ、もうだめなの」おひさはそっとかぶりを振り、なんの感情もない声で遮った、「繁次さんがあたしのこと、あの人が好きだと思いこんで、いつまでもそう思いこんでいるのを見ているうちに、あたしあの人のことが本当に好きになってしまったの」