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おちばのとなり
落葉の隣り
山本 周五郎
「小説新潮」1959(昭和34)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,877 字 · 57 页
「あらいやだ」とおきぬが云った、「ちっとも減らないじゃないの、どうなすったの」
「この唄を知ってるのか」と繁次が訊いた。
「文句はよく知らないのよ、でも好きな唄だわ」とおきぬが云った、「はいお酌、――冷たいわね、お燗を直して来ましょうか」
「それより水を貰いてえな」
「おひやね、はい」おきぬは立っていった。
あとの文句はうたわないほうがいい、とおつぎが云った。あとの切れているほうが情が残るようだって、と繁次は思った。
おきぬが湯呑に水を持って来た。彼は一と息に飲みほそうとして噎せ、激しく咳きこんだ。
「勘定」と彼は呟きながら云った。
「いまのあとを聞かしてくれないの」
「この次だ」と彼は云った、「こんど来たときにな」
「きっとよ、きっといらしってね」
「きっと来るよ」と彼は頷いた。
勘定をして外へ出ると、街はひっそりとしていて、辻燈台のほかには一つの灯も見えず、かなり強い風が吹いていた。繁次は立停って、左右を見まわした。
「どっちへゆくんだ」まっ暗な街を眺めながら、彼は途方にくれたように呟いた、「――これからどっちへいったらいいんだ」