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あしはみていた
葦は見ていた
山本 周五郎
「週刊朝日」1947(昭和22)年6月22日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,985 字 · 36 页
おひさは本気だったろうか。
「それはわからない」と計之介は云った、「本当にそれっきり逢わないつもりだったか、それとも、そうするほうが男をもっと惹きつける、ということを知っていたためか、どっちともわからない、ともかく、――その後おひさから呼びだしは来なかった」
しかし計之介のほうから逢いにいった。
逢いにゆかずにはいられなかった。初めておひさによって女を知り、僅かな期間ではあるが繰り返されて、それがどんなに強い誘惑であるかわかっていた。そのうえ、江戸をぬけて来た女の、ひたむきな、思いつめた気持もあわれであった。
――これで本望だ。
こんな田舎の城下町で芸妓になって、それでも同じ土地にいられるから本望だという。おひさの言葉は彼の心を刺し、彼の心をつかんだ。
――いらしってはだめよ。
おひさは云った。計之介が逢いにゆくたびに、おひさはそう云うのであった。
――土地が狭いからすぐ噂になります、これっきりいらっしゃらないでね。
計之介もそうしようと思った。深江に対しても気が咎めた、深江は十七になり、ずっと娘らしくなっている。いっそ深江と結婚してしまおう、そうすれば女を忘れられるかもしれない、彼はそうも考えた。