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あしはみていた

葦は見ていた

山本 周五郎

「週刊朝日」1947(昭和22)年6月22日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,985 字 · 36 页

青空文庫

すると却って執着が強くなった。おひさの身についた、男を夢中にさせる技巧にか、――そうかもわからない。しかしそれ以上に、女の思いつめたすがたが、あまりに哀れでいじらしかった。馴染のない土地の座敷で、田舎客を相手にうたったり踊ったりしている姿を想像すると、もうそれで、逢いにゆかずにはいられなくなるのであった。

――こんどこそ、これっきりよ。

おひさはそう云った。こんど来たってもう逢わないとも云った。しかも逢う度数は増してゆくばかりであった。

――こんなことをしていてどうなるの。

――そのうちに飽きるさ、大丈夫だよ。

――そうね、どうせ御夫婦になれるわけじゃないし、そのうちには飽きるかもしれないわね。

――そうだとも、二人ともきっと飽きてくるよ。

そして二人の仲はさらに深くなった。

「もう半年もしたら、本当に飽きて別れたかもしれない」と計之介は云った、「しかしそのとき、まわりで二人の仲が評判になり、松野がしきりに意見を云いはじめた」

「松野はおれのところへ相談に来た」と東次郎が云った、「おれはもう少し待てと云った、もうやむだろうから、もう少し黙っているがいいと云ったんだ」