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あしはみていた

葦は見ていた

山本 周五郎

「週刊朝日」1947(昭和22)年6月22日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,985 字 · 36 页

青空文庫

「松野はそれができなかった」と計之介は云った、「もう金がなくなりかけていたんだ」

伊太夫は金のことは云わなかった。杉丸家に聞えては済まない。家中の評にのぼっても、家名に瑾がつくからと云った。それからの二人はそれまでの二人とは違ってきた。みんなが睨んでいる、みんなが仲をさこうとしている、もうおおっぴらには逢えない。二人はそう思い、隠れて逢うようになった。それが二人をもっと強くむすびつけた。世間の眼を忍ぶことで、お互いへの愛情も、快楽への誘惑も激しくなり、一日も逢わずにはいられないようになっていった。

計之介も女も借金が嵩んだ。

彼は松野に云えない金を借りてまわり、おひさは彼の気づかないところで借金をつくった。いうまでもない、二人は世間の眼を忍ぶために、却って世間の噂を高めるような結果になった。――給銀が払えないので、松野は召使たちに暇をやり、三人いた家士たちもつぎつぎに去った。

父の舎人が死に、彼があとを相続したので、もうなにか役に就くじぶんであった。しかしなんの沙汰もない、おそらく女との噂が邪魔をしているのだろう。役に就かなければ(中老の家格に変りはないが)食禄は三分の一減らされる。