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あしはみていた

葦は見ていた

山本 周五郎

「週刊朝日」1947(昭和22)年6月22日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,985 字 · 36 页

青空文庫

生活はぎりぎりまでゆき詰った。

「そのとき女がうちあけたんだ」と計之介は云った、「はじめは泣くばかりで、どうしても云わなかったが、おれがせめにせめたら、――もうこれで逢えない、自分はほかの土地へくら替えしなければならないのだと云った」

計之介は初めて女の借金を知った。

江戸から来て一年半ばかりの期間に、女は背負いきれないほどの借金をつくっていたし、もう延ばせない期限が来ていた。金を返すか、他の土地へくら替えするか、どちらかにしなければならなくなっていた。

――よし、金をつくろう。

計之介は云った。

――その金をきれいにすれば、おまえの躯は自由になるんだろう。

――そうして江戸へ帰れと仰しゃるの。

――金をつくってからだ。

――あたしをくら替えさせて。

――おれに金がつくれないと思うのか。

――お願いだからくら替えをさせて。

そんなに遠い処ではないからくら替えしても逢えないことはない。むしろ土地が離れるから、気兼ねなしに逢えるだろう。おひさはそう云った。しかし彼にはそうはできなかった、彼のために江戸をぬけ、彼のためにそんな借金を負わせて、それで黙って見ていられるものではなかった。