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あしはみていた

葦は見ていた

山本 周五郎

「週刊朝日」1947(昭和22)年6月22日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,985 字 · 36 页

青空文庫

「起きろ、人が来るとみっともない、起きてわけを話せ」と東次郎は云った、「いったい、どうしたんだ」

「おれは斬られたかった」

「起きて話せ」

「おれは斬られるつもりで来たんだ」

「さあ、起きて刀をしまえ」と東次郎は云った、「果し合をしずに済めばそれに越したことはない、さあ起きてちゃんとしてくれ」

計之介は起きあがった。東次郎が刀を渡すと、立って、顔をそむけたまま鞘におさめた。

「おれは恥ずかしくって死にたいんだ」

「ひと言だけ云え」東次郎が云った、「なにがあったんだ」

「あいつが、――逃げた」

東次郎は黙って次を待った。

「昨日の夜明けまえに」と計之介が云った、「おれが眼をさましたら、あいつはもういなかった」

「――慥かにか」

「有るだけの金と、あの漢鏡がない」と計之介は云った、「金のほうは僅かだが、漢鏡が家宝で、高価だということを知っていた、それが無いんだ、――おれは昨日、一日じゅう捜しまわった、だがあいつはどこにもいない、もう逃げたことは確実だ」

東次郎は歩みよって、計之介の肩へ手を置いた。

「危ないところだった」東次郎は云った、「よかった、藤吉、よかったよ、天の助けだ」