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ばらとみこ
薔薇と巫女
小川 未明
「早稲田文學」1911(明治44)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,174 字 · 15 页
人間が死んでしまってから、果して国というような名のつくものがあるだろうか。霊魂はどういうように生活するものだろうか。死んだ母と、見た凶夢とに関係があっただろうか……などといろいろ目に見えない心の疑問があった。
彼は、遂にXの町へ旅立することに決心した。燕が南の国に帰りかけた頃、彼も亦南の方を指して旅をつづけていた。
余程旅した後であった。道を行く人にXの町を聞いた。或者は、まだ遠いと言った。或者は曾て聞いたことのない町だといった。彼は、或る町で老婆にXの町を聞いた。その老婆は彼を家に泊めてくれた。その夜、老婆はXの町について教えてくれた。
此処からまだ三十里南にある町だ。而して若い巫女のことも話したのである。その町に昔からの豪家があった。その家に一人の娘がある。生れた時から蛇や、鳥の啼声を聞き分け、よく人の生死を判じたのである。家の周囲は繁った深林であって、青い鳥や、赤い鳥が常に枝から枝へと飛び渡っていた。娘は、また生れつき蛙を食べたり、蛇を食うことが好きであった。家の人は、この娘が普通の人間でないのを怖れて、世間にこのことを秘そうとした。而して外に出して、勝手に生きた蛇や、蛙を食うのを止めようと思った。