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しじみだに

蜆谷

山本 周五郎

「新読物」公友社 、1947(昭和22)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,957 字 · 28 页

青空文庫

……お八重は顔をあげて、それはお受けができないと答えた。

「娘ひとりでございますから、田地山林をいただきましても荒らしてしまうに違いございません、それでは申しわけがございません、それでは申しわけがございませんから」

「もっともな申し分である、しかしそれは弥之助に相談すればできぬことではあるまい、留守ちゅう世話になったのだ、弥之助もいやと申さぬであろう、辞退はあいならんぞ」こう云って又左衛門は姿勢を正し、庄屋と名主の名を呼んだ、これまでのことがすでに意想外だったし、その呼び声の調子が厳しく凛烈だったので、二人は身をちぢめながら地面へ額をすりつけた。

「庄屋年寄、名主組頭たる者は、地子をいつくしみ困窮を救い、相たすけてところの平穏をはかるのが勤めだ、しかるにそのほうどもは旧領主の負けいくさをさいわいといたし、又二郎、弥之助ら留守宅のものなりを不当にかすめ、田地を取り上げ弱味につけこみ害迫したる条々ふとどき至極である、屹度申し付くべきところだが、思し召すところあってこのたびは沙汰なし、ただし弥之助母子、お八重の今後をそのほうどもにあずける、いささかたりとも疎略の扱いある場合は、村役はもちろん一村過怠に申し付くるゆえさよう心得ろ」