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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

――それらは幾十年の寒さ暑さに遭って、壁体の上には稲妻のような罅が斜めにながく走り、雨にさんざんにうたれては、一面に世界地図のような汚斑がべったりとつき、見るからにゾッとするような陰惨な邸宅だった。

それでも往来に面したところには、赤く錆びてはいるが鉄柵づくりの門があり、それをとおして石段の上に、重い鉄の扉のはまった玄関が見えていた。

「おおあすこに何か貼り札がしてある!」

その玄関の扉のハンドルに、斜めになって文字をかいた厚紙が懸っているのを帆村は見た。なんと書いてあるのだろう。彼は光線のとおらないところにある掲示を、苦心して読み取った。

――当分旅行ニツキ訪問ヲ謝絶ス。十一月三十日、鴨下――

「ウン、鴨下――というか。ここの主人公の名前だな。その主人公は旅行に出かけたという掲示だ。なアんだ。中は留守じゃないか」

帆村はちょっとガッカリした。

だが、よく考えてみると、留守は留守でも、それは十一月三十日に出ていったのだから、一昨日の出来ごとだった。それだのに、昨夜からずっとこの方、煙突から煙が出ているというのは一体どうしたことだろう?

「鴨下ドクトルが、ストーブの火を燃しつけていったのかしら。