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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

なんという強力なんだろう。見かけは普通の人とあんまり違わぬ背丈でありながら、まるで仁王さまが砲弾なげをするような激しい力を持っているのだった。そのとき何処からともなく、飛行機のプロペラらしい音響が聞えてきた。

すると、蠅男は可笑しいほど俄に周章てだした。最後の樽をなげつけてしまった彼は、ひらりと自動三輪車の上にとびのると、エンジンをかけた。そして鮮やかなハンドルの切り方でもって、ドンドン走りだした。

長吉は憤慨のあまり、下から石をぶっつけたが、どうしてそんなものが崖の上まで届くものではない。遂に蠅男は口惜しがる帆村と長吉とを谿底へ置いて山かげに姿を消してしまった。聞えていた飛行機のプロペラの音も、そのうちに何処ともなく聞えなくなった。

帆村と長吉とは、生命びろいをしたことに気がついた。そこで勇気をつけて、一旦下りた崖を、またエッチラオッチラと上っていった。十分で下りたところが、三十五分も懸ってやっと崖の上に匍いのぼれた。

二人は夕方の山道をトコトコと歩いていった。三十分ほどして、やっと一台のハイヤーが通りかかった。二人の老人の客が乗っていたけれど、無理に頼んでそれに乗せて貰い、蠅男の逃げていった有馬温泉の方角へ進撃していった。