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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

警官は間もなくホテルにとびこんで来た。

「やあ帆村はん、なにごとが起りました」

と、向うから声をかけられたのを見ると、それはかねて見覚えのある住吉署の大男、大川巡査部長と、外一名であった。帆村も奇遇に愕いて尋ねると、大川巡査部長は昨日辞令が出て、この宝塚分署の司法主任に栄転したということが分った。時も時、折も所、蠅男の跳梁の真只中に誰を見ても疑いたくなるとき、最も信用してよい旧知の警官を迎えたことは、帆村にとってどんなに力強いことであったか分らなかった。

警官二人を部屋の中に入って貰って、糸子の保護を頼んだ上で、帆村は帳場へトコトコと下りていった。

帳場では大川主任の訪問をうけてから、すっかり恐縮しきっていた。そして帆村にありとあらゆる好意を示そうとするのだった。

帆村はさっきから考えていたところに従って、帳場に質問を発した。まず誰かホテルの者でこうこうした若い婦人を見かけたものはないかと訊いてみた。

帳場では、私どもは決して見かけなかったと返事をした。それからすぐ雇人たちを集めて、同じことを問いあわせて呉れた。しかし誰一人として、糸子に該当する婦人を見たものはないということだった。