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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

ましたわ」

「ほうそうですか。ふうむ」

と、帆村は腕組をして考えこんだ。

そのとき正木署長のところへ電話がかかってきたとかで、雇い人に案内されて出ていった。が、すぐ署長はとってかえして、急用が出来たから署へ帰る。しかしすぐまた此処へ出直すから後をよろしくと帆村にいってアタフタと出掛けていった。

あとは三人になった。

「するとカオルさん。貴方はなにかお父さまの身体についていた痣とか黒子とか傷痕とかを憶えていませんか」

と、何を思ったものか帆村はさきほどから熱心になって、カオルに話しかけたのであった。

「さあ、そうでございますネ」とカオルはしきりと古い記憶を呼び起そうと努力していたが、「そうそう、あたくし一つ思い出しましたわ」

「ふうむ。それは何ですか」

と、帆村は思わず膝をのりだした。

「それは――」

とカオルが云いかけたとき、雇い人が急いで室内にはいってきて、ドクトルがこれから二人に会うからすぐに二階へ来てくれと伝言をもってきた。カオルは遉がにパッと眸を輝かし、十五、六年ぶりに瞼の父に会える悦びに我を忘れているようであった。

カオルと山治とが席を立って、二階へ上っていくのを見送った帆村は、ただ一人気をもんでいた。