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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

「呀ッ、痛ッ」

その叫びに応えるように人の気配がした。手紙でも書くのに夢中になっていたらしい若い看護婦が、愕いて彼の枕頭に馳せよった。

「お目覚めですの。お痛みですか」

彼は軽く肯いて、看護婦に時刻を訊いた。

「――そうですね。いま夜の九時ですわ」

と、東京弁で彼女は応えた。

「どうでしょう、僕の傷の具合は――」

「たいして御心配も要らないと、先生が仰有っていましたわ。でも暫く我慢して、安静にしていらっしゃるようにとのことですわ」

「暫くというと――」

「一週間ほどでございましょう」

「え、一週間? 一週間もこんなところに寝ていたんじゃ、脳味噌に黴が生えちまう」と憂鬱そうに呟いたが、間もなくニヤリと笑みを浮べると、「看護婦さん、すまないが大急ぎで、電報を一つ打ってきて下さい」

痛そうに帆村は唸りながら、東京の事務所宛に、簡単な電報を発するよう頼んだ。

看護婦が頼信紙を手にして廊下を歩いていると、立派な紳士を案内してくる受付の同僚に会った。

「あら。君岡さん、丁度いいわ。あなたのとこの患者さんへ、この方が御面会よ」

上から下まで、黒ずくめの洋服に、ワイシャツと硬いカラーとだけが真白であるという四十がらみの顔色の青白い髭のある紳士が、ジロリと眼で挨拶した。