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はえおとこ
蠅男
海野 十三
「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页
そうなると、話は俄然おもしろいが、まさか君も、流行のお定宗でもあるまいネ」
帆村はそれを聞くと、胸をちょっと張っていささか得意な顔つきで、
「だが検事さん。あのドクトル邸は、ドクトル一人しかいなかったと仰有っていますが、事件前後に、若い女があの邸内にいたことを御存じですか」
「ナニ若い女が居た――若い女が居たというのかネ。それは君、本当か。――」
村松検事は、冗談でない顔付になって、帆村の顔を穴の明くほど見つめた。
探偵眼
そこで帆村は、屍体発見当日、手洗所の鏡の前に、フランス製の白粉が滾れていたことなどを検事のために話して聞かせた。
「そうかい、そういう若い女が、この陰鬱な邸内にいたとは愕いたネ」
と、村松検事は、首をうなだれてやや考えていたが、やがて首をムックリ起すと、可笑しそうにクスクス笑いだした。
「なにがそんなに可笑しいのです」
「だって君、脅迫状の主は、蠅男だよ。いいかネ。蠅男であって、あくまで蠅女ではないんだよ。若い女がいてもいい。これがドクトル殺しの犯人だとは思えないさ」
「でも検事さん。さっき仰有ったように、この蠅男なる人物は、偽りの旅行中の看板をかけるような悧巧な人間なんですよ。