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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

の正体は案外楽に解けたであろう。

奇妙なる金具のギザギザ溝の痕!

そのとき室の入口に、なにか騒がしい諍いが始まった。

踏台の上にいた検事はヨロヨロとした腰付で入口を見たが、ひと目で事情を悟った。

「オイ帆村君。被害者の令嬢がこの惨劇を感づいて入りたがっているようだ。君ひとつ、いい具合に扱ってくれないか。むろんここへ近付いてもかまわないが、その辺よろしくネ」

帆村は検事の頼みによって、入口のところへ出ていった。警官が半狂乱の糸子を室内に入れまいとして骨を折っている。

帆村はそれをやんわりと受取って、彼女の自制を求めた。糸子はすこし気を取直したように見えたが、こんどは帆村の胸にすがりつき、

「――たった一人の親の大事だすやないか。私は心配やよって、さっきから入口の前をひとりで見張ってたくらいや。警官隊もとんとあきまへんわ。警戒の場所を離れたりして、だらしがおまへんわ。そんなことやさかい、私のたった一人の親が殺されてしもうたんやしい。もう何云うても、こうなったら取りかえしがつかへんけれど――そないにして置いて、私がお父つぁんのところへ行こうと思うたら、行かさん云やはるのは、なんがなんでもあんまりやおまへんか」