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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

なぜならこの部屋は天井がたいへん高く、普通の家の書斎に比べると三、四尺は高かったろう。そこから吊り下った屍体の爪先は、床から三尺ぐらいのところにあるが、それを吊り下げる綱の一番高いところは床上から二間ばかり上にあった。犯人の手はどうしてそんな高いところへ届いたのだろう。

いま検事や署長などが、屍体の傍に置いている台は、その部屋にあった二尺あまりの丸い卓子の上に、勝手に使っていた二尺の踏台を重ねあわせたものだ。犯人が総一郎を殺したときには、この踏台はこの部屋になかった。では彼はどうして十二尺あまりもあるところへ綱を通して結び目を作ったのだろう。

この踏台に代るようなものが室内にあるかと見廻したが、低い椅子の外に何にも見当らなかった。しかも今台につかっている丸卓子のほかはなんにも動かさなかったというのだから、ますます不思議である。

では犯人の人数が多くて、軽業でもやるように肩車をして、総一郎を吊りあげたろうかと考えるのに、これもちと可笑しい。それはこの室の扉から出入した者は多分無かったろうと思われるし――多分というわけは、金魚鉢が二階から降ってきたときに、この扉の前を警備していた警官が、ついそちらへ見に行って、一時扉の前を守る者がいなかったことがある。