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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

帆村はホッと吐息をついた。これは控家とあるからには、池谷医師の医院は別のところにあるのだろう。これは住居らしいが、なかなか豪勢なものであった。若い女も此処に入ったとすると、あれは池谷医師の妻君だったかなと思った。

こうして池谷医師の行方はつきとめたけれども、この儘で入ると、鳥渡具合がわるい。すこし計略を考えた上でないと、かえって物事が拙くなると思った帆村は、服でも着かえなおしてくるつもりで、門前を去って、もと来た道の方へ引きかえしていった。

半丁ほど行ったところで、彼は向うから一人の麗人が静かに歩いてくるのに逢った。

「おお、これは愕いた。糸子さんじゃありませんか」

その麗人は、惨劇の玉屋総一郎の遺児糸子であった。彼女は声をかけた主が帆村だと知ると、面窶れした頬に微笑を浮べて近よってきた。

「もう外へ出てもいいのですか。何処へお出でなんです」

「ええ、ちょっと池谷さんのところまで」

「ああ池谷さんのところへ――なるほど」といったが、彼は遽ただしく聞き足した。「あのウ、池谷さんには細君があるんでしょうネ」

「ホホホホ、まだおひとりだっせ」

「ナニ、独り者ですか、これは変だ」