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はえ

蠅

海野 十三

「ぷろふいる」1934(昭和9)年2月号~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,774 字 · 40 页

青空文庫

それをボンヤリ眺ているうちに、彼は思いがけないことに気がついた。

「あの蠅というやつは、もう先にも、あすこに止まっていたではないか。それが今も尚、あすこに止まっている。あれは、先の蠅と同じ蠅かしら。違うかしら。もし同じ蠅だとしたら生きているのか死んでいるのか」

彼は不図そんなことを思った。しかしそれだけでは、一向彼を昂奮に導くには足りなかった。

「なにものか、自分を昂奮させてくれるものよ、出て来い!」

彼はなおも執拗に、心の中で叫んだ。

「そうだ。あれしかない。古い手だが、暫く見ない。あれをまたすこし見れば、なんとかすこしは刺戟があるだろう」

彼は昔の秘密の映画観賞会のことを思い出したのだった。

(三ヶ月ぶりだ。……)

そう思いながら、彼は或るブローカーから切符を買うと、秘密の映画観賞会のある会合へ、こっそりと忍びこんだ。会主にも表向き会わないで、昂奮だけをソッと一人で持ってかえりたいと思ったからである。

映画はスクリーンの上に、羞らいを捨てて、妖しく躍りだした。大勢の会員たちが自然に発する気味のわるい満悦の声が、ひどく耳ざわりだった。しかし間もなく、心臓をギュッと握られたときの駭きに譬えたいものが彼を待っていようなどとは、気がつかなかった。