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けつえきがたさつじんじけん

血液型殺人事件

甲賀 三郎

「ぷろふいる」ぷろふいる社、1934(昭和9)年6、7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,256 字 · 71 页

青空文庫

私は署長の顔色を覘いながら、

「別に深い理由はないのですが、先生は近頃何となく様子が変だったし、それにピストルなんか持っておられたものですから」

と、私の考えを述べた。

署長はうなずいて、

「もう一つ訊きますがね、君は毛沼博士が何故一生独身でいたか、その理由について何か知っている事はありませんか」

私は又ハッとした。私がひそかに恐れていた事に突当ったような気がしたのだ。私は然しすぐに答えた。

「存じません」

知らないと答えた事は決して嘘ではなかった。知っているといえば、なるほど知っている、然し、それはみんな噂が基で、それに私自身の憶測が加ったに過ぎないのだ。確実に知っていると答えられる範囲のものではない。

噂によると、毛沼博士は若い時に失恋をしたという事だ。而もその相手の女性は笠神博士夫人なのである。毛沼博士と笠神博士とは郷里も隣村同士で、同じ県立中学に机を並べ、一番二番の席次を争いながら、同じM高に入学し、ここでも成績を争いながら、帝大の医科に入学した。ここでは、毛沼博士は外科、笠神博士は法医と別れたが、それも卒業してからの事で、在学中はやはり競争を続けていた。