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なぞのおんな

謎の女

平林 初之輔

「新青年 第一三巻第一号」1932(昭和7)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,077 字 · 18 页

青空文庫

それでも、彼はそれを変だとは言えなかった。

「そうですね、おかしいかもしれませんね」

「Mホテルの室にはベッドは二つあるでしょうか?」

「そりゃ二人の室なら、ベッドは二つありますが――」

しかし、夫婦でない二人の男女が、たといベッドは別になっていても、同じ室に鍵をかけて寝るということは容易なことではなかった。もし道子が誰かの夫人で、二人で同じ室にいるところを夫に発見されたら――龍之介はいまさら大変なことを承知してしまったと思った。しかし、いったん承知したことをいまさら、室が同じなら断るというわけにもいかなかった。

「あたし、夫婦といいながら別々の室にいちゃ、かえってホテルの人たちの注意をひいて、眼をつけられやしないかと思いますわ」

「それもそうですね、では、かまうもんですか、一つ室でいいじゃありませんか」

「貴方さえ承知して下されば、あたしの方はそれに越したことはありませんけれど。でも嫌な気持ちがなさるでしょう。こんなことを女の方からお願いしちゃ」

「お互いに信じあってさえいればなんでもないですよ。心のうちは光風霽月ですから」

龍之介はこう言ったものの、彼の心中は決して光風霽月じゃなかった。