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なぞのおんな
謎の女
平林 初之輔
「新青年 第一三巻第一号」1932(昭和7)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,077 字 · 18 页
六
ほんの顔見知りというだけの男女が、一つの寝室の中でこれから十日間も生活するのだと考えると何か無事ではすみそうにない予感がした。
車がホテルのポーチに着くと、二人はほとんどすれすれに並んでホールへはいっていった。
六
その翌日、道子は黒い天鵞絨の服を着て、龍之介は茶の背広を着て、二人は一つの自動車で駅まで着いた。
二人を乗せた車が出ていったあとで、玄関先まで送ってきたホテルの若い事務員たちがいまいましそうに言った。
「ちえっ、馬鹿にしてるよ、昨日一日ですっかりできやがって、野郎、しゃあしゃあしてどっかへつれ込む気なんだろう」
「こちらこそいいつらの皮さ、今月一杯ご厄介になるなんてた奴を、たった六日で、とんびに油揚げをさらわれてしまうなんて」
「おれがはじめに睨んだとおりさ、きっと高等淫売だよ、ただの女じゃないと思ったさ。何のことはない女郎蜘蛛が巣を張ってまってたようなもんさ。そこへあの馬鹿な新聞記者がひっかかったてわけさ。今に骨までしゃぶられるだろう」
「そう、やくな、やくな――」
二人は東京行の青切符を買って、向かいあった座席を占めた。
道子は帽子をまぶかにかぶってうつむきがちで、大船辺までほとんど黙っていた。