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ひょう
豹
山本 周五郎
「アサヒグラフ」1933(昭和8)年9月20日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,656 字 · 14 页
一周忌のときに、一政を伴れて純子が上京してくると、
――この家へ一緒にならぬか。
とすすめたうえ、純子が承知しないのをみると、正三に神戸まで送ってゆけと命じた、正三が須磨の家へ訪れたのはそれが最初で、二度めはこの春二週間ばかり、今度は夏からずっと、もうふた月の滞在であった。
「熱くはありませんか」
後で声がしたので、正三は躰をしめしながら振返った。嫂が微笑しながら流しのほうへ入って来た、
「熱かったらうめさせましょう」
「ちょうどいいです」
「そう」
と云って足を止めたが
「まあ、正三さん、良い躰だこと、肩なんか兄さんそっくりねえ」
嫂の声に思いがけぬ艶の籠っているのを知って、正三は蹠まで赭くなるような気持を感じながら、熱めの湯槽の中へ身を沈めた。純子はさぐるような微笑をみせて
「背中を流してあげましょう」
と云う、ときどきずばっと意外なところで、針を刺すようなことを云う嫂の性格は、そのたびにひどく正三を狼狽させた。今度の滞在にも、最初の晩餐の食卓で、
――正三さん、あなたお目付でしょう。
と笑いながら云った。いきなりそういうふうに人から斬込んでこられることに慣れていない正三は、お目付という言葉をどう解釈するまでもなく赧くなってしまった。