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ひんみんくらぶ

貧民倶楽部

泉 鏡花

「北海道毎日新聞」1895(明治28)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 55,333 字 · 111 页

青空文庫

「誰だ誰だ。」と呼ばわれば、答は無く、ややありて二人三人の跫音の小刻に近付きつ、「私だよ。」というはお丹の声、「おやどうしなすった。」お丹は闇中を透し見て、「談話の邪魔がいるようだね。」「いえ、こりゃお姫様。」「光子様は分ってる、まだ一人いやしないか。」「ほい梟のようだ。居りますよ。」「誰だい。」「これはね、駿河台のそれ猫股婆の車夫なんで、私が折よく乗合わせなかろうもんなら、光子様を手籠にして連れて行く処でごぜえましたぜ。」「だから私が貴女に外へ御出掛けなさいますなと申すのに、とうとう見付られておしまいなすった。」光子は「堪忍しておくれ。」と侘しげにいう。

「まあ、可うございます。ちょっと、其奴を縛っちまいな。」「ちゃんと可いように拵えてありやす。」「そりゃ早い手廻だね、ではね、お前。」と後に控えし壮佼を見返りて、「どこかへ明日まで封じておきな。」「あいあい親方請取ろうか。」「そら渡すぞ。」と屠犬児が片手で突けば、飛んで来る、三吉を引抱きて、壮佼は闇夜に消えぬ。

「貴女御心配には及びません。ここにお置き申すも今夜っきり、明日は立派に駿河台の若殿様にお逢わせ申す。