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にせもの
贋物
葛西 善蔵
「早稲田文学」1917(大正6)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,476 字 · 43 页
といったような帳面を拵えてつけておいた。
ある晩酒を飲みながら老父は耕吉に向って、
「俺はこうしてまあできるだけお前には尽しているつもりだが、よその親たちのことを考えてみろ、そんなもんではないぜ。これがもし世間に知れてみなさい、俺のことをいい親ばかだと言うに極まっている。……いったいお前は今度帰る時、もし俺たちがてんでかまいつけないとしたら、東京へ引返して働くのは厭だと言うし、まあいったい妻子供をどうするつもりだったのか?」
と索るような眼をして言った。で耕吉はつい東京で空想していた最後の計画というのを話した。
「私はその時は詮方がありませんから、妻を伴れて諸国巡礼に出ようと思ってたんです。私のようなものではしょせん世間で働いてみたってだめですし、その苦しみにも堪ええないのです。もっとも妻がいっしょに行く行かないということは、妻の自由ですが……」
「乞食をしてか、……が子供はどうするつもりか?」
「子供らは欲しいという人にくれてしまいます」
「フーム……」老父は黙ってしまった。
数日後、耕吉はひどく尻ごみする自分を鞭打して、一時間ばかし汽車に乗って、細君の実家へお詫びに出かけた。