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にせもの

贋物

葛西 善蔵

「早稲田文学」1917(大正6)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,476 字 · 43 页

青空文庫

と言うんだからね。人間の最上の理想物だと言うんだ。――君もこの信玄袋を背負って帰るんだから、まあ幸福者だろうてんでね、ハハハ」

惣治にはおかしくもなかった。相変らずあんなことばかし言って、ふわふわしているのだろうという気がされて、袋から眼を反らした。その富貴長命という字が模様のように織りこまれた袋の中には、汚れた褞袍、シャツ、二三の文房具、数冊の本、サック、怖しげな薬、子供への土産の色鉛筆や菓子などというものがはいっていた。

さすがに永いヤケな生活の間にも、愛着の種となっていた彼の惣領も、久しぶりで会ってみては、かねがね想像していたようにのんびりと、都会風に色も白く、艶々した風ではなかった。いかにも永い冬と戦ってきたというような萎縮けた、粗硬な表情をしていた。「ただに冬とのみ戦ってきたのだとは言えまい」と、彼も子供の顔を見た刹那に、自分の良心が咎められる気がした。一日二日相手に遊んでいるうち、子供の智力の想ったほどにもなく発達しておらないというようなことも、彼の気持を暗くした。

「俺も正式に学校でも出ていて、まじめに勤めをするとか、翻訳の稽古でもしていたら、今ごろはこうしたことにもならずにすんだものを、創作なぞと柄にもないことを空想して与太をやってきたのが間違いだったかしれん。