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あかひげしんりょうたん
赤ひげ診療譚
山本 周五郎
07 おくめ殺し
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,548 字 · 47 页
おたねの手を借りて、傷を洗い、膏薬を替え、木綿を巻き直しなどしていると、一人の老人が杖を突きながら、勝手口へよたよたとはいって来、おたねが吃驚して声をあげた。
「まあおじいさん、どうしたの」おたねは立ってそっちへいった、「独りで出て来たりして危ないじゃないの」
それが多助であろう、登は手を洗うために金盥を引きよせながら、さりげなくそっちを見た。多助は孫娘に助けられながら、毀れた木偶のような、ぎくしゃくした動作で、勝手の上げ蓋のところへ腰を掛けた。(そのとき、持っていた杖が倒れて、かたんと高い音がした)老人は痩せていて、皮膚は蝋のように白く、仮面のように無表情で、唇がだらんと垂れていた。
「わからないわ」とおたねがなにか訊き返していた、「なにがどうしたの」
角三がもの問いたげに登を見た。登は黙って首を振った。
「どうしたんだ」と角三が高い声で呼びかけた、「じいさんがどうかしたのか」
「ちょっと待って」とおたねが答えた。
登は角三に、こんどは明後日来る、と云って立ちあがった。熱もすっかりさがったし、傷の化膿する心配もなさそうだ。明日いちど足のほうだけ膏薬を替えるがいい、そう云い残して外へ出たが、おたねと多助の脇を通るとき、多助が涙をこぼしながら、まわらない舌でなにか云おうと努めている姿を見た。