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あかひげしんりょうたん

赤ひげ診療譚

山本 周五郎

01 狂女の話

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,384 字 · 41 页

青空文庫

三

番医の詰める部屋からはじめて、かよい療治の者を診察する表部屋、薬の調合をする部屋、入所患者のための配膳所、医員の食堂などを見たあと、津川は南の口から、庭下駄をはいて外へ出た。

南の口というのは、渡り廊下の角にあり、そこを出るとすぐ向うに炊事場が見えた。瓦葺きの、三十坪ちかくありそうな平屋の建物で、屋根を掛けた井戸が脇にあり、四五人の女たちが菜を洗っていた。漬け物にでもするのであろう、洗って山と積まれた菜の、白い茎と緑とが、朝の日光をあびて、眼のさめるほどみずみずしく新鮮にみえた。

三

津川はその女たちの一人を指さして云った。

「右から二番目に黄色い襷をかけた娘がいるでしょう、いま菜を積んでいる娘です、お雪というんですがね、森先生の恋人なんですよ」

登は無関心な眼でその娘を見た。

そのとき、病棟のほうから、十八九になる女が来て、津川に呼びかけた。品のいい顔だちで、身なりや言葉づかいが、大きな商家の女中という感じであった。いそいで来たのだろう、息をはずませ、顔も赤らんで緊張していた。

「またさしこみが起こったのですけれど」とその女はせきこんで云った、「薬が切れてしまってないんですの、すみませんがすぐに作っていただけないでしょうか」