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たいほしゅぎしゃ

退歩主義者

坂口 安吾

「月刊読売 夏期臨時増刊号」1949(昭和24)年7月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,703 字 · 20 页

青空文庫

題しまして、素人ノド自慢大会。馬吉はオンチであった。調子が狂っているところへ、頭のテッペンから出る金切声と、ヘソのあたりから漏れてくる唸り声と、天地の声が入り乱れて悶えるのである。

「いよウ。馬ちゃアん。待ってましたッ」

と、声がかかったことも有ったから、馬吉もゾクゾクした。うけたといっても一瞬の夢の素人の悲しさ、あとがつゞかない。

品川一平も心眼が狂っていたことに気がついた。

「テメエは役者は見込みがないから、道具方の下働きなら使ってやる。然し、テメエのような大メシ食らいはウチへ置けねえから、今日かぎり、ほかへネグラをさがしなよ」

「そんなのムリだい」

「なにがムリだい。配給もないくせに一升メシを食らいやがって、こっちが持たねえよ。上野の地下道へ行きゃ、なんとかならアな、退歩しろよ」

「いけないよ。地下道に米は落っこってやしないじゃないか」

「テメエの食い分はテメエでなんとかしやがれ。そこまで人が知るもんか」

と、追いだされてしまった。なるほど品川一平の説は正論である。馬吉は正論に対しては感服を忘れぬ男であるから、なるほど、もっとも至極であると思った。然し、感心してばかりもいられないから、一座の誰彼を拝んで、