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うんめいのままに
運命のままに
豊島 与志雄
「黒潮 第壹卷第貳号」太陽通信社、1916(大正5)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,406 字 · 57 页
ぼんやりした夢の気持に襲われたような気がしていたのである。そして下宿には何かが私を待ち受けているように思えて来た。英子から手紙が来てはいないかしらとふと思ってみたりした。
然し下宿に帰るとはたと物につき当ったような気持ちを私は覚えた。誰からも手紙は来ていなかった。室の中には何の異ったものも見当らなかった。本箱も机も、違い棚の上の置物も、それから衣桁にぬぎすてた褞袍までが、皆旧の位置を保っていた。そしてそれらのものが、私の内生活をまざまざと私に蘇えらした。如何ともすべからざる重苦しいものが私にひしひしと寄せてきた。
時計を見ると十時になって居た。私は女中を呼んで床を敷いて貰って、すぐにその中にもぐり込んだ。気味悪い寒さが肩のあたりから全身に流れた。そして私は英子を思いまたお島を思った。お島のことを考えると私は淋しくなった。英子のことを考えると私は生の気力が無くなるような気がした。私は、今はもう対照の漠然とした自分の内心の愛に祈りを捧げるような心持ちで、長い間息をこらしていた。その時ほど私は荒凉たる孤独の感じに打たれたことは嘗てない。凡てのものが私から遠くに行ってしまったことを感じた。